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痛みを改めて考える

kic-hakodate
10月22日
読了時間: 7分

更新日:6 日前

2026/10/22(木)


痛みが一番多く接し、解決しなければならないものなのに案外その正体を理解してはいない

40年以上もやってきて「何言ってんだ」な話ですが、厳密にそれを理解してはいなかった、というのが正直なところです

痛みをなんとかすることは出来るけれど、それがどんな状況から起きるものなのかを十分理解するため改めて考えてみようと思います


私たちが修行中だったころ、痛みの原因は局所的な炎症或いは解剖学的な関連性を持つ部位の問題から派生している、と習いました。

もちろんそれ以外も沢山の原因があるわけですが、あの頃の私にそれを言ってみても理解できないだろうから先生はそれ以上は何もおっしゃらなかったのだろうと今ならわかります。

その後なんとか40年近くこの仕事を続けてこられたわけですが、実感としてですが臨床上最も多い痛みは侵害受容性疼痛と体性関連痛のように思えます(正確にデータをとっていたわけではなく、あくまで経験上の感覚です)。

侵害受容性疼痛とは結合組織や関節面、椎間板やそのほかの組織に有害刺激が加わる、或いはその結果炎症が起き侵害受容器(センサー)を刺激することによって生じる痛みを指します。

筋膜上の血行障害、筋線維上に出来た硬結、関節面の固着などによって起きる間質液の滞留と免疫反応制御エラー。

あるいは椎間板から漏れ出した物質に対する自己免疫問題や、筋膜間にあるヒアルロン酸の劣化がもたらす滑走性問題などが関わっています。

臨床上で割と一般的な腰痛の原因となり得る問題だったりします。

体性関連痛とは神経支配領域、皮膚で言えばデルマトームなどとは無関係に拡がる痛みで、どちらかというと筋膜関連の問題が多い印象です。

神経走行に沿って出るわけではなく、しかし原因部位によって一定の領域が確認されており、かつ抗炎症剤なども効きづらいケースが多いので神経根痛などとは区別しやすい問題です。


さてもう一つは神経根痛という問題です。

神経が物理的な圧迫、絞扼を受けて痛みが生じるとされている、或いはされてきました。

しかし神経が脊椎間孔から出る部分、つまり物理的な圧迫や絞扼を受けうるエリアが痛みを生じさせる原因となるのか。

前根後根からの神経が混在している部分なので圧迫が痛みを生じさせるとすれば知覚鈍磨や運動麻痺、筋の萎縮を伴うはず。

このことには私個人長い間疑問に思っていました。

「脳の中の痛み」(科学新聞社 守屋徹著)から関連しそうな部分を抜粋、引用してみます。


P46から

神経根の圧迫で痛みが起きるか、起きないか

痛みの概念的理解がなければ、痛み治療の臨床に反映させることは出来ないからである

中略

神経根症もその一つで、生理学者と臨床医の見解には微妙な違いが見受けられる

医療の現場では、上下肢痛を伴う頚部痛や腰痛患者の多くが「根疾患」とされている。

一方、生理学者は「痛みの入り口は痛覚受容器である」とする。

この生理学的原則に反する痛みは、神経自体の損傷または神経的な疾患あるいは可塑的な神経の歪みにある。

中略

そうなると、神経根痛や神経根症の説明に使われる機械的圧迫説には「あれっ」ッと思ってしまう

たとえばL4-L5間で、「神経根が侵害されているために下肢痛が起きている」としよう

侵害されたのがL5神経根であるならば、侵害部位の情報は脱分極による痛み信号に変えられて、脳で侵害部位での痛みとして認知されることになる

ここで問題となるのは、侵害部位であるL5神経根から下肢への下降する痛みの認知は、どのような生理学的な機序に基づいているのか、ということである


以下Karel Lewit教授の見解

神経根が実際に力学的に圧迫された場合、「神経の圧迫は単独でも不全麻痺や感覚消失を引き起こしはするが、痛みは起こさないことを指摘しておくべきだろう

根疾患の決定的な証拠について「知覚減退、痛覚減退、弛緩や萎縮を伴う筋脱力、突発性筋興奮性の亢進、腱反射の低下など」の神経学的な欠損がなければならない

中略

このような神経学的な欠損以外では、「疼痛や異常感覚が足指或いは手指にまで放散し、脚全体が痛むような印象や骨が痛みような感じがある場合、伸展下肢挙上テスト(SLR)が45度以下の場合」も根疾患の視野に入るとしている

ここまで

中略

以下菊地臣一教授の見解を交えた解説

神経根を圧迫する頻度は加齢と共に増加している。

ところが神経根障害の有病率は年齢と共に減少しており、このことは神経根障害が神経根の圧迫だけではひき起こされないことを強く示唆するものである

その上で、圧迫性神経根障害の病態を二つに分けている

つまり、「麻痺性」と「疼痛」である。

ここで問題となるのは、同じ病態に生理学的には全く反対の現象が起こるとしていることである

ではその下肢痛はどのようにして起こるのか

菊地教授は後根神経節(DRG)の特徴に着目し、神経根性疼痛に重要な役割を果たすのだとする

中略

1.一次性知覚神経細胞とを持ち、サブスタンスP、CGRPなどの神経ペプチドを産生し、疼痛伝達に重要な役割を果たしていること

2.神経根自体よりも機械的刺激に敏感であるため、わずかな刺激で異所性発火を生じること

3.神経-血液関門のない組織で血管透過性が亢進しており、軽度の圧迫でも浮腫が生じやすいこと


中略

両教授が共に、根性(こんせいと読んでください)疾患は基本的に痛みではなく麻痺性の病態であることを認めているが、その一方で神経根圧迫に伴う痛みについては諸説があり、検証されるべき病態なのである

ここまで


ここで少し解剖生理的な説明を

脊髄神経という太く長い組織は背骨の中を頚からお尻まで途切れることなく貫いています

脊椎骨の間から左右それぞれ前根、後根という神経枝につながる部分を出しています

前根は運動を命令する神経を、後根は末端の感覚が入力されるものだと(ざっくり)お考えください。

この二つが合流して脊椎間孔という脊椎の間にある隙間から出て行くわけですが、その出たすぐのエリアを「神経根」と言います

従来この神経根が椎間板ヘルニアや脊柱の捻れ、前後へのズレなどで圧迫されて痛みやしびれが出る、とされてきました

代表的なところでは古典的なカイロプラクティックの説明に用いられる「サブラクセイション理論」などでしょうか

ラクセションは「脱臼」で、そのサブ(下)なので「脊椎の亜脱臼」が神経機能を障害する、と言うものです

その説明に基づく施術と効果はともかく、理論自体は現在あまり支持されていません

椎間孔はかなり大きく、椎体が多少回旋しようが前後にズレようが神経根を圧迫するレベルまで狭くなることはまれなので神経圧迫説は神経生理学的に成立しないからです。

もちろん脊髄本体を損傷するような脱臼などは別ですが。

一方脊髄後根の神経根手前(まだ椎体から出ていないエリア)には脊髄(或いは後根)神経節という膨らみがあります

これは偽単極性という特殊な細胞群で片方を末端に向けて伸ばし、もう片方はすぐ近くにある後根に向けて伸ばし感覚信号を入力しています。

ここから伸びた神経枝末端において各種(圧力、温度、侵害刺激などに反応する)センサーに接続していて、それを拾って脊髄後角へ届けています

同時にこの細胞内部では神経活動を維持するための代謝やタンパク質合成をになっていて、さらには電位依存性チャンネルによりニューロン自体の興奮性を変化させています

これは例えば神経自体が損傷したり炎症に晒されるなどしたときに信号全体の整合性を保つため異所性発火という現象によって中枢へ異常な信号が送られたりする背景になっています

要するにこの後根神経節こそが「痛みの第一現場」と直接つながるものであり、痛みを感じる重要なパーツであるわけです

そしてこのパーツ周囲で免疫応答(=炎症)が起きると、神経根の物理的圧迫がなくともいたみを感じるように私たちは出来ています

上の引用部にも書いてありますが、後根神経節自体が発痛物質や炎症を誘導する物質を産生、分泌しています

また神経枝全体の牽引、組織上での伸長などでその根本である後根神経節に応力が加わると場合によっては異所性発火を引き起こし、「理由がよくわからない痛み」が誘発されることもあります

また前回書いた反回髄膜神経に混じっている交感神経線維の興奮は、局所的な血管透過性を高め、免疫細胞の遊走を"意味なく"引き起こしうると考えられています

私たちが「ヘルニアの痛み」と一括りにしていたことの正体は、神経圧迫説が説明するような単純なメカニズムだけでは説明しきれない

ひとまずそのことを改めて確認しました


 
 
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