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筋運動と慢性痛

kic-hakodate
9月22日
読了時間: 8分

慢性痛のサイエンス

(半場道子著 医学書院)https://www.igaku-shoin.co.jp/book/detail/111935 

を読んでみました。

慢性痛のことなら何でも知ってるぜ!とまでは行かないけれど結構本は読んだナなどと調子に乗っていました

しかし最新の科学は田舎者のジジイをすごいスピードで置き去りにしているようです。

その中で145pから始まる「筋運動」の章が興味深いものでした。

少し抜粋要約してみます。


疼痛制御の立場からは高強度の筋力トレーニングよりも、日常動作に近いレベルでの有酸素運動を持続的に行うようにした方がよい。

その効果は痛みの閾値上昇:内因性カンナビノイドとオピオイドが関与していて下行性疼痛制御系の活性化が起きている

神経障害性疼痛においても閾値上昇がみられる:GABAによる制御系の活性化、カンナビノイド受容体が関与

無重力下或いは仰臥位姿勢の持続などで抗重力筋の萎縮が起きても慢性的な背腰痛を訴えやすくなる


骨格筋の収縮により以下の反応が起きる

多種類のサイトカインやペプチドの産生・分泌される

これらの生理活性物質は血流やリンパ流内に乗ってあらゆる臓器・器官に運ばれて働きかけ、細胞間隙を介して隣接する組織に作用し、更に自己組織の機能にも影響を及ぼしている

これらの生理活性物質を総称してマイオカインと呼称する


軽度の筋運動を続けているときには、抗炎症作用を持つインターロイキン(IL)-10、IL-4などが産生される

これにより慢性炎症が抑制される


ここで慢性炎症についての説明を

炎症とは要するに免疫応答の最初のフェーズで、これを"狼煙"に実働部隊である白血球などを呼び寄せます

細胞膜からアラキドン酸を引き抜くことから始まりますが、このプロセスをブロックするのがステロイド剤

そのカスケードの下流であるシクロオキシゲナーゼの活性化をブロックするのがNSAIDs

アセトアミノフェンは抗炎症作用はありませんが視床下部に働きかけ発熱を抑制すると言われています

この炎症が慢性的、或いは検出が難しい低レベルで持続しているものを慢性炎症と言います。

現在はこれが様々な問題を引き起こすことがわかってきています

ちなみに炎症は絶対必要な反応で、身体のどこかで常に起きているものです

これが制御不能或いは必要以上に起きるのが問題なのです


IL-10,4の他にも様々な生理活性物質が筋肉から分泌されているがこれらは基本的に高強度では無い運動時に起きる

逆に脂肪細胞から分泌されるアディポカインは(アティポネクチンを例外として)慢性炎症を促進し、様々な病理を加速させる

一方強い、つまり高強度の運動は炎症性サイトカインが体内で急増する

アスリート並みの強い筋運動が健康に良いというのは(多分部分的に)誤った神話である


骨格筋運動は複数の転写調整因子や共活性因子の活性化が起きその結果慢性炎症は抑制される

その代表例が転写調整因子PPAR-γとその共活性因子PGC1-αである

後者は骨格筋を動かすと速やかに筋組織中に発現する

これが発現するとエネルギーとATPの不足が補われ、筋繊維の萎縮を招く因子の転写が抑制される

従った日常的にこまめに身体を動かすことが高齢者のサルコペニアを抑制する

転写調整因子とは遺伝子の塩基配列を変えること無く特定の遺伝子の発現を活性化したり、或いは不活性化し、遺伝子発現を構成的に修飾制御する因子のことである


これについて少し説明します

通常三つの塩基(アデニン、グアニン、シトシン、チミンのうち三つ)を使って一種類のアミノ酸を合成します

これをつなげて巨大な分子にしたものがペプチド或いはタンパク質です

アミノ酸は上記からは64種類合成が可能ですが、人体に必要なのは20種類。

そのうち9種類が必須アミノ酸といって体内では合成されず食事が頼りとなるものです。


この設計図が遺伝子に書き込まれていて、これを読み取って必要なタンパク質やペプチドを作ります

ただ実際には制限されていることがあり,普段作られないものもあります。

このブロックを解除し普段作られないものを作ることが出来るようにすることを遺伝子の修飾制御と言います

使わない筋肉からはあまり上記の反応は起きませんが、運動という負荷をきっかけに起きる、と本は説明しています


PPAR-γもその一つで、筋関連遺伝子の発現を制御するほか、体熱産生プログラムやミトコンドリア機能をコントロールして老化を防いでいる

PCG1-αはさらに、ミトコンドリアの数を増加させ、機能を向上させる作用、活性酸素種による酸化ストレスを抑制して老化を防ぐ作用、代謝や血管新生を盛んにする作用もある

これらを発現させる「筋運動」は非常に有益かつ手軽なSuper Healthyの秘薬である


PCG1-αは活性酸素種を強力に抑制するメインスイッチである

ミトコンドリアがATPを生成する過程で漏出した電子の一部が酸素と結合して出来るのが活性酸素という反応性の高い猛毒

これは細胞内の様々な構成要素を"傷つける"

結果として細胞機能も低下させる

(しかしこれらの猛毒を使って身体に有利な反応を維持していることもある)

生体は常に活性酸素種の害と外界からのストレスに晒されている

これらを除去或いは無毒化する酵素も発現するが、PCG1-αが発現しなければその機能は半減する


ここまでを読んで思うのは「筋運動は活性酸素も増やすけれどそれ以上のメリットがあるから慢性痛や慢性炎症抑制の観点からはやった方が得」ということでしょうか


続き

PCG1-αが発現すると、骨格筋遺伝子の転写と翻訳が進行して筋繊維が生成される。

日常的に有酸素運動を続けている人ほどPCG1-αは速やかに、かつ多く発現する。

速く走るトレーニングを繰り返したり、強い筋運動を行っていると、筋小胞体から大量のカルシウムが間欠的に放出されるようになる

結果として早い収縮に適したtypeⅡX筋繊維遺伝子が発現して、筋肥大が起きてくる。

これに対して持久運動トレーニングを継続得していると運動神経からのインパルスを受けて筋小胞体から少量のカルシウムが頻回に放出されるようになる。

結果として疲れにくいtypeⅠ、typeⅠAの遺伝子が発現してくる

これによってミトコンドリアに飛んで疲れにくい筋線維、エネルギーを大きく得られる筋繊維への切り替えが起きる

トレーニング時の筋運動強弱によって生成される筋繊維の種類が違ってくる

これは筋小胞体からのカルシウム放出様式が異なることに起因している



もちろんこういった見解が臨床に対してどの程度「妥当」なのか、私ではわかりません。

ある生化学的な事実が個人或いはある集団に対して「こうした方が色々有利かな」程度は言えても、万人に対してぜったいにすべきだ!と言えるようなことは珍しいと考えていいでしょう。

しかしながら現時点での臨床上の実感とも照らし合わせてみるに、適切な負荷をかけた運動を継続するというのは


・所謂生活習慣病

・これから派生する生活上の問題

・様々な腫瘍

・慢性炎症を基礎とするダメージ


などに対して明らかなメリットをもたらすことはほぼまちがいありません。

これさえしておけば絶対大丈夫!なんて話ではありませんが、オーバートレーニングは論外として何もしないよりはかなり有利になると私は考えています

一方不調を感じると当然臓器の一つである脳もそれに反応し、長期にわたるそれは「運動する気」を削いでいきます

運動がよいとわかっていてもなかなか最初の一歩を踏み出せいない人、或いは時期があることは私も身をもって経験しています

そんなときはひとまず「運動せねば」という話は忘れてみましょう

運動やその開始へのハードルの高さが脅迫観念的にストレスをもたらしたのでは何にもなりません

これも経験的な話ではありますが、運動しなくても、なんなら腕立て伏せの一回もできない人が健康で長生きしているなんて例も実は結構あります(笑)


統計からみた現実、生化学的な事実。

どちらも大事で無視するのは得策ではありません

しかし運動が強いストレスになるくらいなら寝ていた方がマシと言うことだってあります


今回の本は素晴らしい内容でした。

これに嘘偽りはありません

中途半端な私の頭をより俯瞰しやすく整理整頓してくれたと言っても過言ではありません

一方生化学的な事実に基づく方向性が最終的に「あなた個人」にどんなメリットデメリットをもたらすのか

それを完全に推測することは出来ません

身体の中ではこれこれこういうことが起こっているし、これについて調査してみると「大体こんな感じ」の傾向もっている

ここまでは科学は正しく結論し結果を出している

だけど"あなた個人に対する総合的なメリットデメリット"についてはやってみないとわからない

これが人体における科学の現状での限界です


今後も治良師として適切なレベルの運動は薦めるつもりです

だけど「あなたの健康」を決める要素はそれ以外にも無数にあります

科学の出した答えを参考にしつつもあなたのとっておきを是非探ってみてください

 
 
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